『Blue Peter』徹底解説! セルフ・ライナー(後)

この記事を書いた人
管梓

エイプリルブルーの作曲とギター担当。
For Tracy Hydeや作家業でも活動。
ヒーローはザカリー・コール・スミス(DIIV)と木下理樹(ART-SCHOOL)。
親のお下がりのGR1sを手に入れて以来写真がアツい。
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おっす!
エイプリルブルーのギターと作曲担当、管梓です。
前回からだいぶあいだが空いてしまいましたが、『Blue Peter』の全曲解説後編をお送りいたします!
元ネタを集めたSpotifyプレイリスト及び前編と併せてお楽しみください。

6. サンデー
「J-Popといえばスピッツっしょ!」くらいの発想でぱぱっとつくった一曲。
とはいえカイ君を筆頭にメンバーがスピッツを好きなのも事実なので、結果オーライ。
さまざまなスピッツの楽曲の要素を取り入れたスピッツ幕の内弁当になっています。

アレンジの土台になっているのは「青い車」。
アルペジオが曲を引っ張っていく感じとか、ベースのうねり方とか、ドラムのリズムとか、かなりわかりやすい……。

イントロやAメロのコード進行、オクターブのフレーズが入る感じは「スターゲイザー」を意識しました。
でもそのまま引用せずにコード進行をI→VI→III→IVからI→V→III→IVに変更したり、オクターブのリフの音数を減らしたり、どうにか差別化しようとした形跡が窺えるのがウケますね。
アコースティック・ギターをあえて入れなかったのも、元ネタにした「青い車」「スターゲイザー」がともにアコースティック・ギターがサウンドの肝になっている楽曲だからというのが大きな理由です。
エレクトリックなサウンドになったことで結果的にスピッツのルーツであるRideに近い感触になったような気がします。

Rideといえば、Cメロのドラム・パターンやフランジャーのかかったボーカルはスピッツがRideの影響をかなり色濃く出していた頃の楽曲「ミーコとギター」のCメロを意識しています。
これもかなりまんま引用した感じですね……。

7. 運命の人
春ちゃんが敬愛しているバンドのひとつがふくろうずで、カラオケでもよく「ごめんね」「できない」を歌っていました。
この曲はそんな彼女の「内田万里になりたい」という声を受けてつくられたもの。
全体としてかなり「ごめんね」を踏襲しており、当初の仮タイトルも「ごめんよ」でした。

Cメロのコード進行やリード・ギターのフレーズは「できない」のサビを意識。

こう書くと恐らく想像に難くないかと思うのですが、曲をつくっていくなかで「『ごめんね』と『できない』を足して2で割った曲にしかならない」という問題に直面してしまい、頭を抱えました。
そこからどういう経緯を辿ったのか記憶があまり定かではないのですが、イントロにART-SCHOOLの「ミスワールド」みたいなリム・ショットを刻むドラムを入れたり、リード・ギターにU2のジ・エッジみたいな付点8分のディレイをかけたり、Cメロ以降を4つ打ちにしてギターも轟音成分を増やしたりすることでどうにかただの「ごめんね」を「ごめんよ」にすることに成功しました(?)
結果として、わかりやすい轟音バーストがあり、そこはかとなくダンサブルなビートがあり、でもメロディと歌詞はセンチメンタルな、なかなかライブ栄えする曲ができました。
人気があるのも納得です。

余談ですが、のちに「花とか猫とか」が完成してメンバーと共有した頃のスタジオで、「運命の人」を合わせようとするとなぜかムラオキが「花とか猫とか」のコード進行で演奏しはじめる(しかも指摘するまで気づかない)という謎のバグが発生しました。
曲調もキーもコード進行も似ていないので原因がわからず、しかも後にも先にも似たようなミスが起きなかったのでなんだか怖かったのが印象に残っています……。

8. イノセンス
エイプリルブルーの楽曲のなかでもかなり古く、「エイプリルブルー」「スターライト」に続いて3曲目にできた曲。
以前も述べたように、元々エイプリルブルー始動に当たって僕のなかでのコンセプトのひとつとして「メンバーの共通項であるインディ・ロック的なサウンドをJ-Pop的なソングライティングと融合する」というものがありました。
ギター2人はそれぞれFor Tracy HydeとI Saw You Yesterdayという轟音を鳴らすバンドに所属、そしてドラムはかの17歳とベルリンの壁の宮澤君、と来れば、シューゲイズ×J-Popな曲をつくるのは必然というわけです。

全体としては17歳とベルリンの壁の「反響室」や「終日」といったギター・ポップ色が強めの楽曲を参照しつつ、そこに轟音成分を付加する感覚でつくりました。
具体的なリード・リフがなく、アコースティック・ギターやアルペジオ主体でドライブしていくアンサンブルは「反響室」を意識しました。

間奏の展開は「終日」に影響を受けています。
また、間奏でオクターブ弾きのファズ・ギターが入りますが、これも「終日」の要所要所で入るファズ・ギターを参考にしています。

左右2本のアルペジオ、アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターの2本のコード・ストローク、裏で鳴る2本の轟音ギター、間奏やアウトロのファズ・ギター、とエイプリルブルー最多のギター・トラックが詰まったシューゲイズ・サウンド。
ミックスが上がってきたときめちゃめちゃ興奮したのを憶えています。

9. 花とか猫とか
『Blue Peter』のリード曲で、メンバー一同のお気に入りでもある楽曲。
そしてエイプリルブルーでははじめての(しかもいまのところ唯一の)詞先の曲です。
元々は春ちゃんがふくろうずの「ハートビート」やきのこ帝国の「クロノスタシス」みたいなゆったりしたほんのりブラック・ミュージック的なエッセンスのある曲をやりたいと言うのでつくりはじめた曲で、当初はもう少しアーバンな雰囲気でした。
しかし、歌詞のモチーフになっているというとある映画を観てみたところ、作品の内容に反して都会的すぎる、もう少し泥臭い雰囲気が必要だと判断して全面改稿。
紆余曲折を経ていまの形に落ち着きました。

とはいえ下地になっているのはきのこ帝国「クロノスタシス」の跳ねたリズムや隙間の多いアンサンブル。

そこにNumber Girl的な音づくりとフレージングを意識したリード・ギターを乗せて映画の持つエモさや焦燥感に近づけようとしました(特に「転校生」に似ているわけではないのですが、「転校生」が大好きなのでとりあえず載せておきます)。

間奏で入るトレモロ・ピッキングはArt-School「テュペロ・ハニー」のギター・ソロをイメージしていて、これも焦燥感の演出としてがーっと弾くギターが欲しくて入れました。

まったくの余談ですが、「テュペロ・ハニー」のギター・ソロがAsh「Burn Baby Burn」のギター・ソロの引用であることをSugardropの中村君が教えてくれました……。

慣れない曲調や自分らしからぬ隙間の多いメロディ、そしていちど没にしてぜんぶつくり直しているという事実も相まって当初はあまり自信のない曲だったのですが、メンバーからの反応がよくてとても救われました。
カイ君のダイナミックなノイズ・ギター、ムラオキがARAMで見せるようなファンキーなベース、宮澤君の抑揚を大切にしたドラムなど、各々のプレイ・スタイルをアレンジの段階から念頭に置いて制作できたのもあり、いまはとても気に入っています。

For Tracy Hydeでもお世話になっている中村優斗君が撮影してくれたMVも邦画的な質感がありつつ下世話ではなくてとても素敵。

こちらはライブ演奏の模様。
アウトロの尺を長めに取ってメンバー全員とにかくでかい音を出すので楽しいです。

10. ミルキーウェイの岸辺から
昨年7月6日に開催した初の自主企画『ミルキーウェイの岸辺から』のアンコールでお披露目する新曲が欲しくてつくられた曲。
メンバーの共通項としてみんな映画『Sing Street』が好きなので、劇中のライブ・シーンで演奏される「Brown Shoes」のような楽しく終われるポップ・パンク・チューンをテーマにしました。
メイン・リフやCメロなど随所に「Brown Shoes」のオマージュが入っています。

特に小難しいことを考えず、「速くやかましく楽しく!」という安易な発想で安易につくりました。
ポップ・パンクだもの。
とはいえコーラスワークだったり、2Aで合いの手を入れてくる不協和音気味のギターだったり、さりげなく自分らしさを出せている気もします。
「花とか猫とか」で重たくなった空気をリフレッシュして爽やかに終わるという点でも、アルバムのいい締めになったのではないでしょうか。

今年2月7日のリリース・パーティで演奏したときに、Cメロのギターのかけ合いでカイ君が僕を煽りに来たときにシールドがペダルのつまみに引っかかって僕に一歩近づくごとに音がバカでかくなるのが楽しかったのが記憶に残っています。
ずっとライブをしていないせいか、たった3ヶ月前のことなのにずいぶん遠い昔のことのように思える……。
早く皆様とライブハウスでお目にかかれますように!
新曲もこしらえてその日をお待ちしております、それまでくれぐれもどうか健やかに。
以上、『Blue Peter』全曲解説でした!

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