Bedroom Covers #2: King & Prince「koi-wazurai」

この記事を書いた人
管梓

エイプリルブルーの作曲とギター担当。
For Tracy Hydeや作家業でも活動。
ヒーローはザカリー・コール・スミス(DIIV)と木下理樹(ART-SCHOOL)。
親のお下がりのGR1sを手に入れて以来写真がアツい。
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イェイ!
エイプリルブルーの作曲とギター担当、管梓です。
12月4日にリリースされたデビュー・アルバム『Blue Peter』、お楽しみいただけておりますでしょうか。
リリースを盛り上げるべく始動した『Bedroom Covers』の第2弾は「キンプリ」ことKing & Princeの「koi-wazurai」!

原曲はこちら(インターネット上にはフルで聴く術がないようです)。

ジャニーズを取り上げるなんて意外に思われるかもしれませんが、実は春ちゃんが近頃King & Princeに熱を上げており、その関係で僕の元にもいろいろな情報が流れてくるように。
そんななかで春ちゃんからこの曲をやりたいという希望があり、僕も新たな引き出しを切り開くべくチャレンジした次第です。

アレンジ・ポイント:レトロなMotown風サウンド

この曲のアレンジはリズム・アプローチが先行しました。原曲は典型的な4つ打ちのアイドル・ポップスですが、歴史的に見ると4つ打ちの起源はソウル/ブラック・ミュージックを代表する名レーベル、Motownにあるのだとか。Motownの伝統的なドラム・ビートであるスネアの頭打ちの1拍めと3拍めのスネアをキックにしてしまえば空いた手で金物の遊びを入れやすくなる、という発見が4つ打ちのパターン化およびディスコの発展に繋がったそうです。というわけでまずは歴史を遡り、Motown的な頭打ちのビートとレトロなアレンジにしよう、という発想に至りました。

頭打ちのビートを聴けるMotown楽曲の例がThe Temptationsの「Ain’t Too Proud To Beg」です。
4拍すべてでスネアが打たれ、2拍めと4拍めにリズム・ギターがカッティングでアクセントをつけていることがおわかりいただけるかと思います。これはMotownの典型的な手法のようです。

手拍子とタンバリンを使って表拍を強調する手法、シンコペーションを取り入れたメロディアスでドライブ感のあるベースラインもMotownにおいては多用されているので、僕も今回それに倣いました(がんばってベースを弾いてくれたムラオキに感謝)。

しかし困ったことに僕は特別黒人音楽に詳しいわけでもなく、その上Motownによく出てくるようなピアノやホーンのアレンジや演奏もできない。そこで開き直ってソウル的なエッセンスを取り入れた渋谷系風のサウンドにすることを思いつきました。全体的な雰囲気としてはPizzicato Fiveの「Sweet Soul Revue」を目指しつつ、鍵盤や管弦楽器を省いてギター中心のアレンジにしました。

また、原曲サビの「You & I〜」の箇所のコード進行がクリシェ進行(コードが1つ進むごとに構成音のひとつが半音下降ないし上昇する進行)になっていることに着目。クリシェ進行は甘さがありつつもただ甘いだけではない、不安感や緊張感のある響きが特徴。不安定な恋心を表現するのにぴったりで、かつレトロなアレンジとも相性抜群です。そこでサビのコードを大幅にボイシングし直し、思いきりベタなクリシェ進行にしました。クリシェ進行のわかりやすい例がThe Beatlesの「Something」。Aメロ冒頭のC→Cmaj7→C7は典型的なクリシェ進行です。

ダメ押しとしてクリシェの変動する半音をスプリング・リバーブとトレモロのかかったサーフ風のギターでなぞることでクリシェ感を強調。これによってどことなくThe Schoolの「Let It Slip」のような趣きが出た気がしています。

要所要所で入れたファズ・ギターとベースのユニゾンのリフですが、これはピアノとベースのユニゾンのリフを入れるというMotown的な手法を自分なりにピアノを用いずに再解釈したものです。ユニゾンのわかりやすい例がThe Foundationsの「Back On My Feet Again」のイントロ(The FoundationsはUKのMotownフォロワー的なバンド)。

ファズ・ギターとベースをユニゾンさせるという発想およびフレーズそのものはトッド・ラングレンが率いていたバンド、Nazzの「Open My Eyes」が直接的なレファレンスになっています。「Open My Eyes」はかつてFor Tracy Hydeの登場SEとして使っていたくらい大好きな曲。

Bメロの「ドン、ドドン、パーン」というリズムは4つ打ちと同じくらいアイドル・ファンにはなじみ深いかと思いますが、実はこれも60年代のアメリカに起源があり、初出はThe Ronettesの「Be My Baby」とされています。今回は60年代っぽさを強調するべくサーフ・ギターと深めのリバーブをかけたベルを合わせました。

ギター・ソロの終盤でサーフ・ギターのトレモロ・グリッサンド(トレモロ・ピッキングしながら音を下げてゆく奏法)を入れていますが、この奏法を日本で一躍有名にしたのはThe Venturesの「Pipeline」でしょう。しかし実はこの曲はThe VenturesのオリジナルではなくThe Chantaysというバンドのカバーで、しかもThe Ventures版は海外ではシングル・カットされていないため正確にはThe Chantaysのヒット曲なのだとか。こちらがThe Chantaysのオリジナル。

こちらがおなじみのThe Ventures版。

そんなこんなで出来上がった今回のカバー、60年代の黒人音楽と白人音楽のいいところを切り貼りしてなかなかおもしろい仕上りになったと自負しております(しかも音楽史の勉強にもなり、とても楽しかった)。いかがでしょうか。

余談1:そういえばまったく意図していなかったのですが、出だしが妙にGalileo Galileiの「夏空」っぽいです。なぜ。

余談2:アウトロのコード進行は原曲のアウトロの進行がすさまじくかっこよく、しかも自分のなかにないものなのでそのまま活かしました。楽理的に説明できる方がいらっしゃいましたら仕組みを教えていただきたいです。

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